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銀のSAZI

by 川上 幸生

“そのうちに普請がはじまった。材木をひいてきた馬や牛が垣根(かきね)につながれているのを伯母さんにおぶさってこわごわながら見にゆく。”

中勘助 銀の匙(岩波文庫)より

中勘助は明治18年生まれの詩人で、この「銀の匙(さじ)」がデビュー作である。病弱な幼少時代に叔母とすごした生活が素直な文章で綴られており、この中で家を建てる描写がある。

以前この中勘助の記念館にある杓子庵の茅葺屋根の葺き替えのこけら落とし記念として静岡市からお招きを受けて講演をさせていただいた。正直それまで中勘助さんを知らなかったのだが、こけら落として呼ばれたのに作品を読んでいないとも言えないので、読ませていただいた。

無論素晴らしい作品だったのだが、中勘助氏がデビューするきっかけを与えたのが、夏目漱石であり、夏目漱石は松山市が舞台の「坊ちゃん」を書かれており、何気に縁を感じてしまった。

普請とは、広く平等に資金・労力の提供を奉仕することであり、社会基盤を地域住民で作り維持していくことで近代まで住宅建築は地域の公共工事であり、それを支えるのが地域扶助の精神であった。

この地域扶助の考え方は「結(ゆい)」あるいは「もやい」と呼ばれ、小さな集落では無償で手間と材料を出し住民総出で共同作業をおこなう相互扶助の精神である。

現在も一部の地域では田植えや茅葺き屋根の葺き替えでおこなわれる。「結」の対義語は、「やとう」あるいは「やとふ」で、「家問う」が原義(げんぎ)と言われる。「やとう」とは頼むべき家々をまわって労力の提供を申し入れ、それによって助けられれば自分の家もそれに応じて返すことを前提とする。これは、現在の「雇う」という考え方となっている。

ひとつの出来事から様々な興味が湧き、見識が広がるのは楽しいことである。

そして、自分に問う、私は周囲の人に対して、「結」の精神で接しれているのだろうか、

それとも「やとう」という関係しか気付けれていないのだろうかと…

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川上 幸生
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