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夏をむねとすべし。

by 川上 幸生

“家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き(たえがたき)事なり。

深き水は、涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。細かなる物を見るに、遣戸(やりど)は、蔀(しとみ)の間よりも明し。天井の高きは、冬寒く、燈暗し(ともしびくらし)。造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。“

吉田兼好 徒然草第五十五段

鎌倉時代の末期に書かれたとされる吉田兼好(けんこう)の「徒然草(つれづれぐさ)」には家づくりに関しての記述がある。

上の文を現代語に訳せば、「住まいを建てるなら夏を考えて造りなさい。冬は住もうと思えばどこでも住めるが夏暑いのは耐えられない。庭に川を流す場合は深いより、浅く流す方が遥かに涼しく感じる。室内の細かな部分を見る時には吊すと影が出来る建具(蔀)より、引き戸(遣戸)の方が明るく、部屋の天井を高くすると冬は寒く照明も暗くなる。新築の時に必要無いと思う部分も造っておくと目の保養にもなり、いざという時には役に立つ事があるかもしれないと建築士が言っていた」といったところであろうか。

古民家は蒸し暑い日本の夏を快適に過ごすための工夫をした住まいである。

“建物の上にまず大きな甍(いらか)を伏せて、その庇(ひさし)が作り出す深い廣い(ひろい)蔭(かげ)の中へ全体の構造を取り込んでしまう。寺院のみならず、宮殿でも、庶民の住宅でも、外から見て最も眼立つものは、或る場合には瓦葺き(かわらぶき)、或る場合には茅葺き(かやぶき)の大きな屋根と、その庇の下にただよう濃い闇である。

中略

左様(さよう)にわれわれが住居を営むには、何よりも屋根と云う傘を拡げて大地に一廓(いちろう)の日かげを落し、その薄暗い陰翳(いんえい)の中に家造りをする。もちろん西洋の家屋にも屋根がない訳ではないが、それは日光を遮蔽(しゃへい)するよりも雨露(うろ)をしのぐための方が主であって、蔭はなるべく作らないようにし、少しでも多く内部を明かりに曝す(さらす)ようにしていることは、外形を見ても頷(うなず)かれる。日本の屋根を傘とすれば、西洋のそれは帽子でしかない。“

谷崎潤一郎 陰翳礼讃 (中公文庫)より

夏の日差しを室内に入れないように軒の出は長く、室内は薄暗い…

ゆえに古民家の室内は暗いのだが、陰影の濃淡を美しいと感じる美意識が日本人にはあり、それは侘び寂びにも通じるものだと思う。

古民家は夏涼しい、今の季節でも古民家の室内は涼しく、爽やかな風も通る。これは現代の住宅では手に入らない。

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川上 幸生
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